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大阪高等裁判所 昭和58年(ラ)369号 決定

抗告人 株式会社木本商事

右代表者代表取締役 孫圭鎬

右代理人弁護士 中島馨

抗告人 新井清一こと 朴清雄

相手方 元澤正美

右代理人弁護士 矢野弦次郎

同 中東孝

同 阪本豊起

主文

一  抗告人株式会社木本商事の抗告に基づき、原決定を取り消す。

二  本件を神戸地方裁判所明石支部に差し戻す。

三  抗告人朴清雄の本件抗告を却下する。

四  抗告人朴清雄の抗告につき生じた抗告費用は、同抗告人の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

抗告人株式会社木本商事(以下「抗告会社」という。)については別紙第一記載のとおりであり、抗告人朴清雄(以下「抗告人朴」という。)については別紙第二記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件不動産につき、昭和五八年九月一四日神戸地方裁判所明石支部において、入札期日同年一〇月一四日午前一〇時、競落期日同月二一日午前一〇時、場所同支部、特別売却条件別紙第三記載のとおり、最低入札価額一七〇万円、とする入札及び競落期日公告がなされた。

(二)  同年一〇月一四日右場所において、同支部執行官平松茂関与の下に入札期日が開始され、先ず執行官が執行記録を入札人各自の閲覧に供して売却条件を告知し、入札を催告した。入札人としては、抗告人朴代理人松田幸男、相手方のほか抗告会社の代理人としてその従業員である高野保が参加したが、高野は抗告会社の委任状を持参しながら、代理人による入札について執行官からの注意もなく、同支部で用いている入札書用紙には、代理人を記入する欄が設けられていなかったこともあって、代理人であることを告げることも委任状を執行官に示すこともしなかった。

(三)  同日午前一一時までの間に三者による入札が行われ、高野はいわゆる署名代理の方式により、入札書の入札人欄にかねて用意の抗告会社名のゴム印と代表者印を押捺し、入札価額三〇一万円を記入して入札し、保証金三〇万一〇〇〇円を執行官に預託した。そして、入札の申出は打ち切られ、三者立会いの上執行官が開封した結果、相手方が保証金二五万七〇〇〇円を預託の上入札価額を二五七万円としたのにとどまり、抗告人朴代理人松田は入札価額を二三八万円としたのにとどまったため、執行官は、一旦、抗告会社を最高価入札人とし、その旨及びその価額を呼び上げた。

(四)  ところが、次順位であった相手方が保証金の返還を受けてその場を立ち去り、高野が入札払調書に署名押印する段階になって、抗告人朴側から、高野が抗告会社代表者本人でないので入札は無効である旨の異議の申出がなされた。

そこで、執行官が高野に確認したところ、同人が委任状を提出したため、同人を抗告会社の代理人とは認めたものの、入札書に代理人の表示がなかったことから、執行官は抗告会社の入札を有効な入札と認めず、抗告会社を最高価入札人としないことを表明した。

(五)  続いて執行官は、すでに退出していた次順位の相手方に電話連絡し、相手方を最高価入札人と定める旨及び保証金を再度早急に預託すべき旨連絡し、これを受けた相手方が入札場に立ち戻って保証金を預託した後、執行官は改めて相手方が最高価入札人であること及びその価額二五七万円を明らかにした上、調書に相手方の署名押印を受けて、同日午後三時に入札払いの終局を告知した。

2  ところで、代理人による入札は、先ず代理権を証する書面を執行官に提出した上、入札書に代理人を表示することが必要であり、本来いわゆる署名代理の方式が許されるものと解することはできない。しかしながら、署名代理の方式で差し出されてしまった入札書に、最低入札価額を下まわらない入札価額の明示があり、入札物件の同一性が明らかであって、特別売却条件に適合し、事後にしろ代理権の証明がなされた以上、単に代理人の表示が欠落しているとのいわば形式的な手続違背が入札の効力まで消滅させてしまうほどのかしであると、到底解することはできない。

したがって、前記事実関係の下においては、抗告会社が高野を代理人として行った入札行為は有効と解されるのであり、これを無効として次順位の相手方を最高価入札人とした執行官の入札払手続を是認して相手方に競落を許可した原決定は相当でないというほかなく、自己に対する競落許可決定がなされるべきことを主張する抗告会社の抗告理由は理由がある。

しかし、抗告人朴は、競落許可決定に対して即時抗告をすることのできる利害関係人ではないし、自己に対する競落許可を主張できる入札人でもないのであるから、原決定に対して即時抗告をする資格のないものであり、同抗告人の本件抗告は不適法といわねばならない。

4  よって、抗告会社の抗告に基づいて原決定を取り消し、更に手続をする必要があるから本件を神戸地方裁判所明石支部に差し戻し、抗告人朴の本件抗告を却下し、同抗告人の抗告につき生じた抗告費用は同抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 堀口武彦 渡邊雅文)

〈以下省略〉

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